社会課題を解決し、
損保ジャパンや
日本の未来を創る
これまでの損害保険会社の役割は、事故が起きたあとの補償やサポートが中心だった。しかし、これからは、事故の予防や走行中の見守りも含めたトータルなソリューションで新たな価値を提供していく必要がある。損保ジャパンでは、その中核として安心・安全な自動運転の社会実装を見据えた新規事業・サービス構築の検討を進めている。自動運転は、社会に何をもたらすのか。そして、その先にはどんな世界が待っているのだろうか。プロジェクトをリードする二人に迫った。
SPEAKER PROFILE
安心・安全を
プラスすることで
自動運転の社会受容性を
向上させる
今、さまざまな企業や自治体が自動運転に熱い視線を注いでいる。損保ジャパンでは、いち早く自動運転タスクフォースを立ち上げ、各地で実証実験に参画している。なぜ、保険会社が自動運転に注力するのか。そこに、どんな意義があるのだろう。
「自動車産業の動向を示すキーワードとして、数年前から『CASE(ケース)』という言葉が普及しています。いうまでもなく、Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Share & Service(シェアリングとサービス)、Electric(電気自動車)の頭文字をとった造語です。このワードが象徴するように、クルマが所有から使用へと変わるなか、自動車保険のマーケットは大幅に縮小することが予想されます。当社はこれをピンチと考えるのではなく変革のチャンスととらえ、さらなる社会課題解決とともに新たな収益の芽を育てるため、2019年1月に自動運転タスクフォースを発足しました」と語るのは、自動運転の普及活動や社内向け研修などを担当する岡村真以子。社内に設けたLevel Ⅳ Discovery事務局の運営を担っている。
「Level Ⅳ Discovery事務局は、自動運転技術を活用した新たな移動サービスの導入を目指す自治体や企業を支援するために発足しました。自治体や企業に対して当社のインシュアテックソリューションLevel Ⅳ Discoveryの紹介や自動運転実証に関する最新動向なども発信しています。」(岡村)。
Level Ⅳは、完全運転自動化の一歩手前、施設内や決められたルートおよび限定された地域において、運転席が無人の状態で自動運転走行するレベル4相当を意味する。
「我々のサービスにより、レベル4の自動運転技術が普及する社会へと少しでも近づくことを一つのビジョンとしています。
インシュアテックソリューションLevel Ⅳ Discoveryは、自動運転技術を活用した実証実験に必要な3つのサービスをパッケージで提供することを目論み、ソリューション開発を行っています」と語るのは、タスクフォースの次席として全体を統括し、数々の実証実験にも携わる齋藤慶寛。その3つのサービスに、損保ジャパンが自動運転に挑む意義が含まれているという。
「一つ目は、事故の予防です。自動運転車を走行させる前に、ルートなどの走行環境を中心としたリスクアセスメントを行うことでリスクを低減させることができます。それを可能にしているのは当社が蓄積してきた交通安全のためのナレッジであり、保持している膨大な事故データ。これらのナレッジを活用することで、事故多発地帯の把握や、小学校が近いので子供が飛び出すリスクがあるなど、詳細なリスク評価が可能になります。二つ目は、自動運転車の見守り(遠隔監視)。自動運転車の走行を見守ることで、乗客の安心感を醸成し、万が一の事故やトラブルに即時に対処することが可能になります。三つ目は、従来の保険の役割である事故の補償。このように、走行前のリスクアセスメントから走行中の見守り、万が一の事故やトラブルのサポートまで一貫してカバーできる役割への進化を目指しています。これこそ当社が関わる意義。自動運転のような新しい技術には常にリスクや不安がつきまとうものです。当社のアセットである安全・安心をプラスすることで、この領域の社会受容性を高めることができるのです」。
移動の自由を提供することで、
交通弱者を救い、
交通事故のないクルマ社会の
実現へ
タスクフォースが立ち上がってから、損保ジャパンが関わった実証実験はすでに70以上にのぼる。自動運転は、どの段階まで来ているのだろう。
「自動車を公道で走らせるときは、運転手が居なければならないと定められています。自動運転の実証実験の場合、運転手が車両に乗っていなくても遠隔監視室に運転手を置くことで、走行が可能となります。当社は自動運転の見守り(遠隔監視)の研究を加速させるために、遠隔型自動運転運行サポート施設『コネクテッドサポートセンター』を開設。パートナー企業と協力して実証実験の中で、自動運転車の見守りと、事故やトラブルを想定したサポートサービスの検証を重ねています」と解説する齋藤。
多数の実証実験を積み重ねているものの、レベル4まではまだ道半ばである。しかし、自動運転技術によって救われる人々がいる。その目指すべき未来がチームを駆り立てている。
「公共交通が衰退し孤立する人々、免許を返納し移動の自由がない高齢者など、移動に関する社会課題が顕在化している地域が多くあります。こうした課題を抱える地域や人々に移動の自由を提供したい。そして、交通事故のないクルマ社会を実現したい。社会課題の解決も当社がプロジェクトを推進する大きな目的です」と齋藤はいう。
地方創生や観光地の復興などの足がかりとして、大きな期待を寄せられる自動運転。実際、自治体からも多数の問い合わせがあると岡村は語る。
「Level Ⅳ Discovery事務局を立ち上げてからわずか1年で、50ほどの自治体や企業から問い合わせをいただいています。これからは、自治体や企業向けのシンポジウムを企画して、自動運転への理解を促していきたいと考えています。また、全国に営業拠点をもち、地元の企業や自治体と信頼のネットワークを築いているのも当社の強み。保険以外にも地域貢献につながる提案として自動運転の可能性を広めていきたいです。そのためにも、社内の啓蒙が大事です。社内の「情報」と「学び」の総合動画配信ツールである『SOMPO Stream』へのコンテンツ提供や全国の社員向けに勉強会を企画し、ムードアップを図っているところです」。
新しい収益、社会課題の解決
その先に広がる、
壮大な世界観
自動運転向けのインシュアテックソリューションLevel Ⅳ Discoveryの完成まで、まだ3、4割の段階と語る齋藤。しかし、来年には7割まで達成できると意気込む。その視線の先には、壮大な世界観が広がっている。
「さまざまなパートナー企業と連携して、新規事業という形で当社の未来の収益をつくる。それが、社会課題の解決にもつながる。さらに、その先には、もっと大きなものがもたらされると思っています。例えば、運転による疲労や自動車事故など、運転にはネガティブな要素があります。そうした要素が払拭されたとき、クルマの移動が自由で、楽しいものに変わる。例えば、仕事や食事をしながらの移動が可能となったり、寝ている間に気がついたら目的地に着いていたり、そんな日常もあたり前になります。さらに大きなスコープで考えると、移動を支える自動運転が新しい街づくりであるスマートシティのモジュールになっていくと考えています。また、視点を変えてみると、自動運転技術向けのリスクアセスメントや遠隔監視による見守りおよび保険が、自動走行ロボットなど他のイノベーション領域へと横展開していくこともありえます」と、多様な視点で自動運転技術を見つめる齋藤。
さらに、SOMPOホールディングスがパートナー企業と掲げる「安心・安全・健康のリアルデータプラットフォーム」にも言及する。
「SOMPOホールディングスは、保険、介護、ヘルスケア分野において、実に多様なデータを蓄積してきました。それらのデータを連携させることでサービスの質を高め、お客さまのQOLを向上させていく。またリアルデータプラットフォームを通じて、SOMPOグループ各社およびパートナー企業の製造、自動車走行、物流、輸送などを含むさまざまなオペレーションから生成されるリアルデータを統合・分析し、プラットフォーム参加者に活用を促していきます。自動運転領域は、そのリアルデータプラットフォームを構成する重要なドメインとなると考えており、私たちの取組みがSOMPOホールディングスにはもちろん、将来的には日本の産業界のデジタルトランスフォーメーションにも貢献できる可能性を秘めていると考えています」(齋藤)。
一方、岡村は自動運転と介護ビジネスの親和性の高さを強調する。
「免許返納された高齢者が、自動運転車内で介護サービスを受けながら旅行する。観光地まで行けない方は、近場を周遊しながらVR等の映像コンテンツを通じて観光を疑似体験したりできる。このように自動運転領域の検討が、人々の人生の幸福感を広げていくことができます。まさに、SOMPOホールディングスのブランドスローガン『安心・安全・健康のテーマパーク』です」。
安心・安全を乗せた自動運転の走る先には、スマートシティをはじめとする新しい未来が待っている。
※ 取材時点での所属部署を記載しております